2010年 08月 15日
モンテクリスティをかぶる。 |
ダーク・ボガード演じるアッシェンバッハ教授が、ビーチバンガローから、浜辺の美少年に眼を凝らしている。少年の母親役は、シルヴァーナ・マンガーノ。教授の妻には、マリサ・ベレンスン。夏のヴェネチアで過ごす、彼ら彼女達の装いや佇まいの優雅なこと。中でも、彼らのかぶる帽子が気になって仕方がなかった。流石、イタリア名門貴族ヴィスコンティ家の血を継ぐ、ルキノ・ヴィスコンティの描く世界。
二十歳そこそこの青二才に、あんな帽子はとうてい似合わない。いつか、そう、「ボガードの歳くらいになったら」と、何度もその映画「ヴェニスに死す」を見ながら思ったことか。50代を終える頃、”そのくらいになったら”の誕生日を迎えるにあたり、夏のハット=パナマを自分に奢ることにした。
ちなみに、パナマハットはパナマでは作られていないことをご存じだろうか。パナマから大陸に渡ったコロンビアの隣国、エクアドルで作られている。中でも、モンテクリスティという街の周辺の村の物が上等。これらの製造元にうるさい注文をつける店から選べば、間違いない。それが英国「Lock&Co Hatters」か、伊太利「Borsalino」だ。で、英国に軍配。ボルサリーノにはリボン(帯)に、ロゴが「これでもか」と輝いているからだ。やだ、嫌だネ~、こ~ゆ~の。
にわかジェントルマン通り。
ロンドンはセントジェームス通り。この通りと交わるジャーミン通りを廻れば、ジェントルマン風には、なる。誰でも簡単に。お金があれば、だが。しか~っし、外観を繕っても、この界隈にいくつかある「ジェントルマンズクラブ」には、紳士以外、入会はもちろん、入館もできない。
そのセントジェームス通りに、「Lock&Co Hatters」はある。ご近所、靴の「John Lobb」や蝙蝠傘で名をはせる「Swaine Adeney Brigg」には誰でも入る事ができる。当たり前、お店だからね。ご常連の方はともかく、にわか紳士を気取りたいお方は、お出かけください、な。
「Lock&Co Hatters」はセントジェームス通りにあることから「James Lock」とも呼ばれている。市内のどこでタクシーに乗っても、この名を言えば「アイアイサ~」っとばかりに、店頭横付け間違いなし。それほどに有名。
顧客には超のつく有名人がロットオブ。イギリス王室をはじめ各国王侯、貴族。歴代アメリカ大統領、チャーチルからチャップリン、シナトラと枚挙にいとまがない。現天皇陛下がプリンスの時にも、お仕立てになったそうな。昨今の流行でいえば、白州次郎の名もあがります。はっきり言えば、「クラ~ス=階級」の方々が顧客なんであります。かふいう店での買い物には、それなりの覚悟ってもんが必要なんです。でも、ご安心めされ。上記三店には世界中から注文できるオンラインショップが設けられております、故。
で、ハット。初めに求めたのは「Wide brim Panama」。商品説明に「with travel tube & folding instructions」とあるように、旅行用に畳んで入れる筒と、説明書がついている。いやはや、なんとも男心をくすぐる仕様。用がなくとも、旅に出たくなるようなハットではございませんか。
ついで数年後に求めたのは、「Namibia」なる、コットンハットとスタンダードとおぼしき
「Folder Pnama」。このハットトリオで暑気払いをと願っているが、日本の夏、緊張の夏(?)は厳しい~っ。
*モノクロ写真は、かつてのセントジェームス通り。
『LIFE』より。
by COTYUU
| 2010-08-15 19:15
| 落ちない噺